The Two Faces of January
2015年4月11日発行 編集・発行:松竹株式会社定価:720円
正味40ページに軽いカバーのついたパンフレットは、ペーパーバックサイズといったらいいだろうか、映画のパンフレットとしては、小型。その分、ぎっちりと詰まった活字が同じく小さいので、読むのに一苦労する。それでも読み通したくなる充実した内容だ。
『ギリシャに消えた嘘』というタイトルは、この映画のためにつけられたもので、原作の邦訳は『殺意の迷宮』。パトリシア・ハイスミスによる原作のタイトル『The Two Faces of January』は、ローマ神話のヤヌス、つまりジャヌアリーが旧年から新
年に移り、ふたつの顔を呈することを意味している。過去と未来というふたつの顔であり、それは一人の人間の心の中にも存在するものだ。
ギリシャのアテネで知り合った、アメリカ人夫婦とツアーガイドをしているアメリカ人青年が、殺人、詐欺、逃亡という緊迫した事態に自ら巻き込まれていく。舞台はアテネからクレタ島、そしてトルコのイスタンブールと移りながら、パルテノン神殿とかクノッソス遺跡など、人間が神に対峙する場が意図的に選ばれている。時代
は1962年。映画の中でも実生活でも盛大にタバコを吸っていた頃で、この映画でも終始、おしゃれに、あるいは心を映すものとして、タバコが登場する。なにか懐かしい。
ホセイン・アミニ監督(脚本も)にとって初めての監督作品だそうで、これまで脚本で名を成してきた経歴がしっかりと生きたのだろう。ヴィゴ・モーテンセン、キルスティン・ダンスト、オスカー・アイザックの3人の主役たちもパンフレットに2ページずつしっかりと言葉を残していて、その意味でも貴重な記録となっている。レビューも5人が書いていて、それぞれの視点がいい。
もう一度、みなくては、と思わせるパンフレットであり、しかも音楽がアルベルト・イグレシアス(アルモドバル監督とよく組むスペインの作曲家)だとパンフレットで認識したため、いっそう、新たな興味をかきたてられた。
とすると、やはり、このパンフレットの版と活字の小ささはもったいない。もっと大きくするか、あるいは紙質をあげて白地にくっきりとした印字で読みやすくするか、どちらかにしてほしかった。
ストーリーが中途までなのは、相変わらずのこと。小説もあることだし、このおかしな習慣は、ぜひ改めてもらいたい。むしろ小説とどこが違うのか、文字でとどめることで映画としての評価が定まると思う。青年が盗聴器を身につけていると知ったモーテンセン扮するチェスターが、我が身にすべての罪ありと虫の息の下から語るシーンは、書き残しておきたい場面だ。それでこそ、二度目にみた観客はディテールに目を凝らして楽しむことができるのだから。