98字日記ーひとりのときに

文章を書く鍛錬として書きはじめました。「98字」は自分への課題のひとつです。バイオリニストが演奏前に調弦するA(アー)の音のように正確に、短く、つづく音楽が気持ちよく響くことを願って。

5月14日(火)
判断が鈍くなって、大切な事や人を見失う。今夜は北川暁子さんのピアノリサイタルに行けなかった。夜の外出にも例外があっていいと自分に伝えていなかったため。上野からタクシーで帰ればすむことだったのに。


5月13日(月)
しっとりと雨に包まれる樹々を見ながら過ごす一日。ケネス・クラークの本でスーラの『水浴』について読む。platonic beauty という言葉がぴったりの、25歳の作品。32歳で生を終えなければ・・という詠嘆に共感する。


5月12日(日)
「月に憑かれたピエロ」などシェンーンベルク作曲の歌を工藤あかね・ソプラノと廻由美子・ピアノで聴きに虎の門のビーテックへ。行きやすいベーゼンドルファー店舗。でもこの2日は東西線が一部運休で散々な目にあう。


5月11日(土)
今日は失敗の多かった日だけれど、沢山歩いても怪我をせず、いま自分の部屋から薄藍色に染まった美しい夕空を見ていられるのだから良しとしよう。あの良き「パーフェクト・デイズ」は正しくは『PERFECT DAYS 』だった。


5月10日(金)
千葉の野田市でコウノトリが2羽のひなをかえしたという。10年ほど前から幼鳥を放って飼育していたのが成功したそうで、そういえばわが家の近くによく飛んで来ていた鳥たちの姿は減っている気がして心配だし寂しい。


5月9日(木)
一昨日スーパーで、すぐ食べるフルーツを安く買った。夜にふとレシートを見ると、それとは別に値引き前のも付いている。昨日迷いつつ申し出ると、セルフレジを二度通ったのですね、と即座に現金で返してくれて感激。


5月8日(水)
あの初経験は、どの芝居で? 全てが終わり舞台の奥の壁だった幕がさーっと開いて日常とつながる。通りを歩く人達がこちらを見つめ、野良犬が横切る。花園神社で紅テントだったか黒テントだったか。唐十郎さん逝去。


5月7日(火)
ヴィム・ヴェンダース監督の『パーフェクト・デイズ』が船堀シネパルで昼間上映になって、やっと見る。昨年暮の公開だったのだから遅すぎで後悔しきり。柴田元幸さんが出演しているなんて誰からも聞かなかったし・・


5月6日(月・休)
ドジャースの大谷翔平が1試合の中でホームラン9号と10号を打った。10号は141mという今季自己最長だそうで、それがどれほどすごいことなのか私にはよくわからないけれど、滅多に飛ばせない距離らしい。おめでとう。


5月5日(日)
映画『オッペンハイマー』のプログラムはデザインがきつい。ごく細かな活字が黒地に白抜き、赤地に黒で何ページも続く。誰にこれを読ませるの? でも中身は知りたいことだから、手元に留めて少しずつ読んでいる。


5月4日(土・休)
誰とも会わずに過ぎると一日が長く感じられる。でもすることには事欠かない。相変わらず思っていたことの半分も終らない。のり子さんの『かつおは皮がおいしい』の幾度目かの拾い読みをしていたら夜になっていた。


5月3日(金・休)
今日から4連休中は晴天らしい。銀座は大きなスーツケース(これまでの大の約2倍)を引く家族や若者で溢れていて、その分、住宅街は深と静か。ブランクーシは1点、心を掴まれるものがあればいいのだ。ただ、それはどれ?


5月2 日(木)
アーティゾンで『ブランクーシ展』。待望の、と言える内容であるはずはなかった。いま大回顧展がポンピドゥーで開催されている最中なのだから。むしろ数十年前に見た覚えのある石橋コレクションが懐かしかった。


5月1日(水)
「におうぞ におうぞ こいつは たまらん ちょっと その あじ みて みたい/そんな うたが きこえて きた。/アーコはおどろいて、りょうてで しっかり、はちみつの びんを かかえた。」(大石真『アーコのおみまい』から抜粋)