2013年7月

7月31日(水)
バスの中で眠って乗り越し、気づいた場所が都現代美術館前という幸運でフランシス・アリス展を観た。ジブラルタル海峡を挟む二つの大陸を、海を渡る子どもたちの列でつなぐアクションの映像、絵、物。いい空間だった。


7月30日(火)
自分は都会なりの安全の中にいて思うことだけれど、被災した東北3県で10米以上の高さをもつ防潮堤建造計画が四百箇所あるという。壁で海が見えずに海辺に住む——そんなことって!自然と折り合うことは難しい。


7月29日(月)
ある事件の背景として「限界集落」という呼び名を知った。大野晃・社会学教授がそう呼び始めた「65歳以上が住民の半数以上を占める集落」は全国で8千もあるという。どうか穏やかで幸せな環境の中にあってほしい。


7月28日(日)
山口県と島根県で観測史上最大の雨が降っている。毎時138ミリというのは豪雨を通り越して息がつけない状況とか。川が増水し、山口市阿東で流された自宅の屋根に乗っていた三人家族がヘリコプターで助けられた。


7月27日(土)
夏の日の夕方の色合いが好き。といっても我が身は涼しいところに置いて空や川や建物を眺めての話。と思いながら、はっと気がついた。これは雨の気配の色だ。危機一髪、最初の稲妻と雷に怯えながら家に帰り着いた。


7月26日(金)
机の抽き出しの思わぬ所から、20年も前に泊まったパリの小さなホテルの名刺が出てきた。ホテルの人の手書きで宿泊日と値段が書いてある。いまもあるかとウェブで見たら、あった。オテル・ドゥ・ラ・ソルボンヌ。


7月25日(木)
週に一度か2週に一度、講座で会える人たちがいるのは幸せ。ほとんど一方的なこちらからの説明に終わってしまうので、もう少しなんとか、と思いつつ、ささやかながら自分の持てる知識と技術をすべて伝えたくて。


7月24日(水)
真正面というのが好き。グラント・ウッドの『アメリカン・ゴシック』やヴァトーの『ピエロ(ジル)』も好きだし、女性画家たちの真っすぐこちらを見つめる自画像を何点か写真で手元に揃えた。それについて書きたい。


7月23日(火)
京橋のシェ・イノを出たとき、ぽつっと雫が落ちてきたと思ったら、仕事場に着く寸前から2時間ほど稲妻、雷、視界を閉ざす雨の帳。携帯の待ち受けが綺麗な飾り文字入りデザートの写真になり、毎年喜びを思い出す日。


7月22日(月)
夏の光にはアブドゥラ・イブラヒムのピアノソロがいい。でも冬の冷たい風にも同じように思うかもしれない。アルバム『SENZO』(日本語で先祖と横にある)を繰り返し聴いている。22曲が自然につながって心地いい。


7月21日(日)
夜8時に投票が終わると同時に結果がすぐテレビの画面に——という参院選後の光景を見たくもなく、一緒に投票をしたMとそのまま銀座に買い物に出たのは正解だった。竹葉亭の外の行列にびっくり。律儀な人が多い。


7月20日(土)
横浜へ向かう京急のなかでロジパラを真剣にやっている女の人がいた。多分9星の超難問を埋めている。周辺ができあがっていて真ん中が空いている。やっぱり。集中力に欠けていては失敗連続も無理ないのだ。


7月19日(金)
明日までにすませることが全部たまっていて焦っている。仕事場に張り付て…慰めは鮮やかな東京タワー。ブルーと淡いピンクのライトの真ん中にある満月のような金色は何?その位置が移っていくのを確かめる。


7月18日(木)
注文してあったエドワード・ゴーリーが届いた!私にしては素早い判断で、これで来年も生きていかれる。多分。来年の各国の祝日一覧表を眺めているとバンク・ホリデーが目につき、日本では大晦日がそうなっている。


7月17日(水)
ちょうど60年前の英エリザベス女王戴冠式の日にヒラリーとテンジンによるエベレスト初登頂のニュースがロンドンに届いた——それを送った随行記者ジャン・モリスの文章を翻訳塾で訳す。彩なす歴史の一断面の魅力。


7月16日(火)
21日の参院選を控え、初めて電話アンケートを受けた。どこのアンケートかよく聞こえなかったので躊躇したものの、録音済みの質問に返答はプッシュホンの番号なので好奇心が勝つ。最後に実施者名を繰り返すべき。


7月15日(月)
注文するだけで本が数日で手元に届く便利さにどれだけ助けられていることか。アマゾン・ドット・コム。でもそのためには端末機をもって1時間に百件もピッキングをする人が必要なのだ。書店に行こう、できる限り。


7月14日(日)
紙類がすぐ身辺に溜まって整理に頭が痛いのだけれど、大きな箱にいつの間にか一杯になったメモが捨てられない。提出が遅くなった課題訳や連絡、コメントなどに付いてきたメモの用紙や一筆箋がそれぞれ素敵なのだ。


7月13日(土)
駅のエレベーターでアメリカ人が乳母車にベイビーを二人乗せていた。男女の双子だという。二人が互いの顔を見ながら別々に寝ていられる形。こういうものや車椅子などの機能性とかデザインの進歩が日本では遅い。


7月12日(金)
最近は水、木でエネルギーを使い果たし、金曜日は、ぐったりとしている。この暑さに我が家の長老たちが気になり電話をする。ちゃあちゃんは今日は抗生物質に関する本の読書会だという。80歳を過ぎて元気なこと。


7月11日(木)
郵便箱にきれいに洗った大きな紫蘇の葉が7、8枚、紙ナプキンに包まれてメモと一緒に入っていた。いい匂い!ご近所からのプレゼント。昨日は小田原の土から採れた莢隠元をいただいたし、これぞうれしい夏の恵み。


7月10日(水)
白い三角の出窓に置いた小さなオリーブの木が、無事に育っているらしいのが嬉しい。頼りなかった葉っぱも幅をもってきたし、密集してきていると思う。ご馳走の風と日光をたっぷりと与え、水捌けをよくして水も。


7月9日(火)
お墨付きの世界遺産に気持ちを左右されることはなかった。でも偶然みたTV番組が最高で、考えを変える。スロバキアのヴルコリニェツ村。19世紀にトウヒの木で建てられた45軒の家々と住民たちが美しかった。


7月8日(月)
気温35度。建物か乗物の中に入る合間に、もわっとした熱気を浴びる。仕事部屋はレースと薄緑色のカーテン越しの光だけにして閉じこもり、高橋悠治さんの『モンポウ 沈黙の音楽』に浸る。夕方、稲妻が空を裂く。


7月7日(日)
先週、芸大の漱石展にいったあと、台東区循環バスで芸大前から谷中や千駄木経由で上野駅まで戻ったのが楽しく、そのときに貰った「めぐりん」の路線図をつぶさに眺めた。百円で1時間以上乗れるし浅草にも行ける!


7月6日(土)
レッド・アストラカン(林檎の種類)を調べていて、母のアストラカンのコートを思い出した。ロシアの黒い子羊の毛皮で、触るとすべすべだった。5歳の私はシューバ(毛皮のオーバー)。厳寒の大連での必需品だった。


7月5日(金)
熱が出て朦朧としていて、よかった。家に一日中いる理由ができて嬉しい。熱にうなされて読むにふさわしい谷崎潤一郎の『魔術師』をくらくらしながら。そしてジョコヴィッチとデルポトロの試合。明日の授業はOK。


7月4日(木)
仕事場のマンションの玄関に大きな笹が飾ってある。短冊に自由に書いて吊るせるようになっている。家族の健康や幸せへの願いが多い。「宇ちゅうしになって十万円のすいかが買いたい」「一日中眠らせて」というのも。


7月3日(水)
羨ましすぎて買えないでいるのが福井優子さんという人の本『観覧車物語』。今日も清砂大橋から葛西臨海公園の「ダイヤと花」が煌めくのを見ながら思った。何かに気づくこと。何が好きか知って、それを追うこと。


7月2日(火)
サクランボって、なんて綺麗。光を含んだ赤がこんなにいきいきしているものは他にない。そしてなんとおいしいのだろう。きのう牧南さんと電話で「痛みを忘れるのはおいしいものを食べているとき」と笑いあったっけ。


7月1日(月) 月夜の音楽「空のみずたまりで/しずかに/足を洗っているのは/北から帰ってきた/鳥たちです‖子どもがひとり/窓をあけて/あかるい耳をかたむけています/プラチナ色のしずくに/びっしょりぬれて」(水野るり子)