連載 その⑤

ほんとですか?

 このあいだ、相づちに「ほんとですか?」を連発するひとに会った。ふつうなら「へええ」とか「そうですか」とか、もし本当に話を疑うのなら「ほんとう?」と言うべきところに、わたしの話にいちいち「ほんとですか?」と言う。それほど信じられないような話をしていたわけではなく、めずらしい話をしていたわけでもなかったのに、随所随所に「ほんとですか?」と言われ、「ウソじゃないわよ」と言いたくなった。本人はわたしの話を疑ってそう言っているわけではなく、軽く、相づち代わりに言っているのだということは、話のしかたからわかったので、反論は我慢した。

 それからしばらくしてテレビで若い男性数人のおしゃべりがあって、そこでも彼らはお互いに「ほんとですか?」を連発し合っていた。なんだかほほえましくもあったが、やっぱり変。違和感あり。

 同じ番組の中で、一人の若者が食事のお代わりをうながされると、「だいじょうぶです」と言って断っていた。これは、前回書いたデパートでの「だいじょうぶですか?」の使い方同様、このごろはやりの使いかたらしい。ものを勧める立場の人が「だいじょうぶですか?」と訊く。答えるほうも「だいじょうぶです」と答える、のだろう。わたしは言わないけど。

 なにかをうながされて、断るときは「けっこうです」という言葉があるのだが、代わりに「だいじょうぶです」と言って断っているようだ。「要りません」とは言いたくないからかもしれない。「要りません」という言葉はきつすぎるのだろうか。あいまいを愛する現代の日本の若者たちには。「けっこうです」という言葉は相手との距離も適当にとれるし、便利な言葉なのに、古すぎる? 奥ゆかしい、いい言葉だとわたしは思うのだけど。

 こういうふうに、言葉がいままでとはちがう使い方がされるとき、止めようはないのかもしれないが、それでも、反応することは必要ではないかしら。言語学者ではないが、外国の言葉を日本語に翻訳している者として。いや、そんな職業的関心よりも、日常的に日本語を話している人間として、ちょっとちがった使い方を耳にしたら反応せずにはいられない。半分はおもしろがっているのですが、半分は本気です。