連載 その④

だいじょうぶですか?

 ショッピングモールへ買物に出かけた。婦人物売り場で夏のインナーをみつけ、近くにいた店員さんに声をかけた。若い女性の売り子さんは、わたしからシャツを受け取ってレジに向かいながら笑顔で「だいじょうぶですか?」と訊いた。わたしは「え?」と思わず、なにがだいじょうぶなのか、という顔をしてしまった。気分が悪いように見えたのだろうか? それともこのサイズでだいじょうぶかと訊いているのだろうか?

 わたしの怪訝そうな顔を見ても、その売り子さんはまったく動じずにレジまで案内し、「ほかはだいじょうぶですか?」と言った。だいじょうぶですかの意味は、ほかにほしいものはありませんかの意味だった。銀座の大きなデパートでも、同じように、この場合は最初から「ほかは」をつけて訊かれたことがある。

 だいじょうぶですか? または、ほかはだいじょうぶですか? と売り子さんが客に訊くとき、「ほかにはなにかお探しのものはありませんか? お求めのものはこれだけですね?」という意味だと、客はみんなすぐにわかるのだろうか? たとえ「ほかは」をつけたとしても、だいじょうぶという言葉をこのコンテクストで使っていいのだろうか。

 だいじょうぶは、まちがいない、これでいいと安心する気持ちを言い表す言葉。辞書を見ても、あぶなげがなく安心できるさま、強くてしっかりしているさま、とある。売り子さんが客に「ほかはだいじょうぶですか?」と訊くとき、だいじょうぶの主体はなんだろう? だいじょうぶかと訊かれているのは、わたしの記憶力? だとすると、「これだけでいいのですね? あなたの記憶はだいじょうぶですね?」と訊かれているのと同じ? 

 短い言葉で客の購買を促すのなら、「ほかはよろしいですか?」でじゅうぶんだと思う。とにかくわたしはこの「ほかはだいじょうぶですか?」にとても違和感を覚えた。でも、その場で、その言葉遣いはおかしいと注意するのはむずかしい。みんな、こういうとき、どうしているのかしら?

 言葉遣いは流行ったらもう止められない。いまはただこの表現が一部に留まり、流行らないようにと祈るしかない。