翻訳断章6

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幼児向きの本を訳すとき、対象年齢を聞かれることがあるが、最初に決めずに訳し終わってから考えるといい。原文を大切に、使われている単語を素直に受け止めて日本語にすれば自ずから言葉のレベルが定まってくる。そこではじめて固定観念にとらわれずに対象年齢を考えて、言葉の難易度を調整する。易しい言葉のなかに難しい言葉がひとつ入っているのもいい。それこそ子どもにとって宝物となる。


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いくつか並んだ名詞を結ぶ and は、一般的に最後の名詞の前にだけ入れて、A, B, C and D とする。この and がよく「そして」と訳されるが、それが妥当かどうか、考えたい。D だけを強調したいのか、主語の場合は次にくる動詞と合っているか、日本語として自然か。日本語では通常、「桃、柿、梨、そして桜桃が・・」というより「桃や柿、梨、桜桃が・・」という方が自然だと思う。


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辞書になかったら造語かも知れないと考えよう。2019年からよくみる Brexit は Britain と Exit から作られた「英国のEU離脱」。映画『トイストーリー』の Spork というキャラクターは spoon と fork から生まれた。2020年にエルサレムで開催中の展覧会『Emoglyphs』は日本発祥の emoji(絵文字)と hieroglyphs (象形文字)を合わせたもの。


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コロナ時代によく聞く言葉を二つ。まず「自粛」の英語は self quarantine 。quarantine は元来イタリア語の40を表し、伝染病発生地から来た人や貨物に40日間の検疫期間を設けたことに派生する。もう一つは「(食べ物の)持ち帰り」。takeout といい、日本語でもテイクアウトと使われる。イギリスでは takeaway が多く、アメリカでは 会話で to go も多いので覚えておきたい。


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2020年は新型コロナウイルスとの闘いの年になり、歓迎しない新たな言葉に次々と出会う。pandemic は日本語でもパンデミックというが、lockdown はロックダウンより都市封鎖、cluster はクラスターよりも集団感染と日本語にするべきだという意見もある。短期間に最適の訳を付けるのが難しいところ。coronavirus はコロナウイルスと表されるが英語での発音はコロナヴァイ(ア)ラスに近い。